大学院に入りたての先生や、
臨床の先生に対して研究の報告をするときに
ノックダウン実験と
ノックアウト実験の違いが理解できずに
実験の結果をどう評価していいのか
わかりにくかった経験があります
そのような研究の経験としては
初期の段階の方のために
簡潔に解説します
ノックダウン実験の特徴
<転写されたRNAを破壊する>
上の図のように、
ノックダウンの対象となるのは
DNAから転写されて作られた
RNAになります
細胞が発現するRNAと
対になるRNAを導入することで
その対になったRNAが破壊される機能を
利用した方法です
<導入が手軽>
一般的にDNAは安定でRNAは不安定なので
RNAの方が攻撃しやすい対象です
siRNAは外部からステルスRNAという試薬を導入して
その試薬が細胞内のRNAを抑制します
この効果は一時ですが即効性があります
一方でshRNAは
RNAを抑制するためのRNAを作るらせるために
プラスミドベクターを導入したり
DNAを改変したりしてします
DNAを改変する場合は
ノックアウトと同様に導入は複雑で
持続性があります
<発現するタンパク質は完全には無くならない>
抑制するために導入したRNAは
細胞の発現する全てのRNAを
捕まえられるわけではないので
一部のRNAはそのまま翻訳され
タンパク質を発現します。
どれくらいノックダウン効果が表れているのかは
ウエスタンブロットで確認する必要があります
ノックアウト実験の特徴
<DNA上の情報を書き換える>
ノックアウトの方法は
DNAを改変して
正常な転写、翻訳ができなくなり
結果的にそのタンパク質は存在できなくなる方法です
例えばフレームシフトという方法では、
DNAの情報は3つのコードで一つのタンパク質を決めるので(コドン)
一つのDNAをなくしてしまえば
それ以降のコードは1つずつずれて
全く違うタンパク質になります
途中でストップコドンが入れば
そこまでのタンパク質しか作られず
あまりに短いタンパク質はゴミと認識されて
細胞内で破壊されます。
<導入は複雑で時間がかかる>
DNAを改変するのは
非常に骨の折れる作業です
元々安定性の高いDNAに対して
修復機能や他の生物のDNA改変機能を利用して
DNAを改変します
実際の実験では
このような改変が確率的に起こるため、
何十ものサンプルをつくって
数個のうまくいったものが使えるといった感じです
<生き残った1細胞のクローンを採取する>
DNAが改変された細胞は
そのDNAを維持したまま分裂します
生き残った細胞の中で
DNAの改変がなされているものを選別し、
その細胞を増やすことで実験に使用します。
このようにして手に入れた細胞は
クローンと呼ばれ
目的のタンパク質が作られない貴重な細胞として
研究室の財産になります。
論文を読んでいると
別の研究室から細胞をいただいたという記載が多く見られるのは
それほどこの細胞を作るのは
骨の折れる作業だということの表れです
<目的のタンパク質は完全に消失する>
ノックアウト細胞では
DNAが改変されているので
目的とするタンパク質が完全に消失します
ノックアウトと比較すると
タンパク質の機能を評価しやすい傾向にあります
<たまたま何かの異変で生き残った細胞の可能性がある>
クローンを作ることは
大きなメリットですが、
逆にデメリットもあります
生き残った細胞は
生き残る理由がある細胞なので
本当に目的のタンパク質がなくなるという
効果だけが与えられているとは限りません
たまたまそのタンパク質がなくても生きていける
別のタンパク質を作るようになった細胞の
可能性もあります
遺伝子操作をしようとして
目的と違う効果まで獲得あるいは欠損させてしまうことを
オフターゲット効果と言います
論文を読むときの心構えとして
<siRNAのノックダウンでは細胞ごとにノックダウン効果が違う>
実際に論文を読む段階では
これまでに述べたことを踏まえた上で
評価しなければなりません
まず、siRNAでは
ステルスRNAが
たくさん導入された細胞と
ほとんど導入されていない細胞とが
混在した状態です
ウエスタンブロットではもちろん
目的のタンパク質は完全に消失しませんし、
顕微鏡で見る場合は
目的としたタンパク質の発現が少ない細胞で
議論しなければなりません
<特別は変異細胞を見ている可能性がある>
一方でshRNAとノックアウトは
効果が出ているクローンを増殖させているため
どの細胞も効果が表れていると考えられます
しかし前述したように
オフターゲット効果が起きている可能性もあるので
注意が必要です
<いずれも完璧な実験ではない>
ノックダウン実験も
ノックアウト実験も
一長一短で完璧な実験ではありません
結果の信頼を得るためには
複数のステルスRNAやクローンで
結果が一致していることや、
ノックダウン実験もノックアウト実験も行って
その結果の整合性を評価することが
大事になります
また、細胞の種類によっても
結果が異なることも珍しくないため
どの細胞で結果を評価するかは
非常に大事なことです。
まとめ
ノックダウン実験と
ノックアウト実験の
概要を簡潔にまとめました
実験そのものの難しさや
評価の複雑さは
ある程度理解しておいた方がいいでしょう
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